【Class Diary】映像編集演習(2年生)

映像編集演習(研究指標科目)

授業担当:日下部隆太

この授業について 

映像編集演習の授業は、「映像を編集する」とは一体どういう行為なのか?ということを探求しています。ある映像に、何か別の映像を繋いだとき、2つの映像のあいだにはどんな関係が生まれるか? それが積み重なって1つのタイムラインになったとき、全体を通して見るとどんな化学変化が起こっているか? こういうことを考えるために、「撮影して、つないで見て、意見を交換する」というプロセスを繰り返しながら、映像がどんな特性を持っているのか?編集とはどういう表現の可能性を含んだ行為なのか?考えています。 

実習の様子 

この日は、「散歩する人が見たもの」という言葉をモチーフに、

・散歩をしている人の姿、表情

・その人の視線の先にあったもの

という二つの要素を含む素材を撮影し、散歩する人とその人が見たもののショットを使って、散歩する人の時間が感じられるような3分間の短いタイムラインを構成してみました。 実習は、「撮影」「編集」「上映&意見交換」の3つの流れに沿っておこないました。 

①撮影 

グループに分かれての撮影でしたが、散歩する人物の動機を考えて、撮影するものを事前に話し合って決める班もあれば、 カメラを持って早速散歩に出かけ、ひとまず気になったものを被写体にして撮ってみて、構成に必要な要素を絞り込んでいく班もありました。 

②編集 

撮影後はグループで編集を行いました。自分たちが撮影したものを改めて見返すとどう見えるのかを話し合いながら、初めには予想されていなかったつなぎ方を試したり、何か足りないなと感じたら、編集を一旦止めて追加の撮影に出かけていったりしました。

撮影を計画していた段階では、一番最後に持ってくる予定だったショットを、タイムラインの真ん中に持って来ることで、物語の流れが転換するポイントが生まれるような構造を発見したり、 編集でハサミを入れてしまうことはできるけれど、切ってしまうとどうしてもそのショットが持っていた本来の雰囲気が崩れてしまうことに気がつき、カットを割って編集することをやめてみたりと、ショットごとの細かい繋がりと、全体を通して見たときの流れに意識を向けながらタイムラインをじっくり観察している姿が印象的でした。

つながったタイムラインを見返している中で、初めは「何か違うんだよなー」という雰囲気が漂っ ていたりするのですが、ある瞬間に「うん、これかも!」という共通の感覚が訪れることがあり、 意見を交換しながらグループで編集を行うことの面白さだと感じました。 

③上映と意見交換 

映像表現への視座や感受性を深めていくためには、出来上がったものを他人と見て、お互いにど う見えたか?率直な意見を交換することが大切だと考えています。この日も、

・自分はどう感じたのか?

・それは具体的にどの部分だったのか?

・なぜそう感じたのか、自分なりの仮説を立ててみる

という切り口を頼りに、意見を交換しました。「編集作業は見る人に感情を強制するようなこともできてしまうと感じた。つないでいる時は作業が面白くてどんどん進んでしまったけれど、改めて見返すと、自分たちが撮った素材とは違うものになってしまったような気がして、果たしてそれが本当にいいことなのか、考え直す必要を感じました。」と言ってくれた学生さんの意見がとても印象的でした。 

実習を終えて発見したこと 

「撮影して、つないで見て、意見を交換する」というプロセスを循環しながら編集という行為に ついて考えを巡らせる中で、自分たちの編集は、映っていたものと、それを構成して人に見せるというプロセスにおいて、誠実だったのか?もしかしたら、撮られた映像に対して不誠実だったのではないか?という考察が得られたことは、とても大切な発見だったように思います。もともと撮られた映像が持っていたかもしれない、見る人の中で開かれていったかもしれない可能性を、人の意識を引きつけるために刺激を追求するような繋ぎ方へと閉じていってしまうこと への内省的な振り返りだったように思います。 この振り返りは、わたしたちが普段どのような映像に囲まれて暮らしているのか、改めて目を向けてみるきっかけを与えてくれるような大切な発見だったと思います。 

(文/日下部隆太)