グループ作品制作演習(研究指標科目)
授業担当:川部良太,五十嵐耕平
−
「オリジナルシナリオ」を元にした短編映画をグループで制作します。2年次後期のシナリオの授業で1人1本執筆したシナリオから、どのシナリオを映画化するのか、授業内でのディスカッションと吟味を経て決定し、グループをつくるところから授業は始まります。その後は、各グループでのプリプロダクション(シナリオの読み込み、ロケーションハンティング、キャスティング、小道具・大道具等の美術の準備、衣装合わせ、撮影スケジュールの調整、キャストも交えた本読み、立ち稽古、リハーサル等)を経て、撮影に臨みます。4 月から始まった授業、今年は5チームに分かれ、ちょうど今、撮影の真っ只中です。
本専攻のこの授業では、既存の映画制作の方法をただただ真似て、監督・助監督・撮影・録音・美術…etcといった制作担務を、当然のこととして班員に割り当てるのではなく、グループごとに、担務のあり方自体をも検討し、「他者と共につくる」、その創造的な制作方法自体をも模索していきます。
“監督”だから演出(ディレクション)をするのではなく、スケジューリングから小道具の準備、実際の芝居の演出に到るまで、制作に関わる人間が、全ての制作プロセスの中に埋め込まれた演出(ディレクション)の機会を、主体的にそして自覚的に捉えることは如何に可能か、実践しながら体得していくことを目指しています。
また、映画制作において、「シナリオから映画をつくる」という方法自体は、決して当たり前のことではなく、数ある作り方の中の一つの方法に過ぎません。(本専攻では、授業ごとにも様々な制作方法を試行します)
しかしながら、シナリオを映像化するという行為には、記号でしかない言葉(文字)を、現実世界に存在する具体的な「事物(場所や環境やモノ)」や、人物の「アクション」と「セリフ」へと、変換・リアライズしていく作業が必然的に要請されます。
例えば、シナリオの中に「喫茶店」と書かれていたとして、それはチェーンのカフェなのか、個人経営の古い喫茶店なのかによっても、人物像や物語の内容に大きく関わってきます。そして同時に、「“この喫茶店”だったら」「“この屋上”だったら」「“この河原”だったら」と、見つけた“この場所”において、人物はどのようにいるだろうか、ここだったらどのようなアクションになり得るだろうかと、芝居を何度もリハーサルして、そこに生きる人物の芝居を探っていくことも必要です。
シナリオの中に書かれた人物を、1人の生きた人間として具体的に造形するために、どこでどんな風に生きている人なのか、シナリオに書かれたことはもちろん、シナリオに書かれていないことをも含めて、読み込み、リサーチし、現実の具体的な場所やモノや人物同士の連関の中に立ち上がるアクションによって、人物をいかに造形することができるのか、シナリオの執筆者かどうかを問わず、考えられるようになることを目指しています。
映画制作は、シナリオ上の字面の記号的な再現ではありません。現実世界への仔細な観察力と、フィクショナルな想像力を駆使して、シナリオを現実の中で創造的に飛躍させることができるのか? 言葉を、具体的な現実として血肉化することができるのか?シナリオを元にした映画制作のプロセスを通して、映画表現の本質に触れる重要な問題に立ち向かっていきます。
(文・写真/川部良太)